「ChatGPTに、うちの就業規則やマニュアルを覚えさせたい」 「過去の商談データを学習させて、営業のアドバイスをさせたい」

AI導入を検討する企業様から、 もっとも多くいただくご相談の一つです。

しかし、ここで多くの方が 「AIにデータを『学習』させなければならない」 という大きな勘違いをされています。

実は、社内データをAIに活用させるのに、 時間とコストのかかる「学習(ファインチューニング)」は、ほとんどの場合不要です。

その代わりに使われるのが、 現在のビジネスAIの主流技術である「RAG(ラグ)」です。

この記事では、AIコンサルタントの視点から、 なぜ学習ではなくRAGが推奨されるのか、その仕組みとメリットをわかりやすく解説します。

そもそも「RAG(ラグ)」とは?

RAGとは、**Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)**の略です。

専門用語に見えますが、仕組みはとてもシンプルです。 一言で言えば、「カンニングペーパーを見ながら回答させる技術」です。

イメージしやすいように、 AIを「めちゃくちゃ物知りな新入社員」に例えてみましょう。

1. 「学習(ファインチューニング)」とは?

新入社員を学校に通わせ直し、教科書(社内データ)を丸暗記させることです。

  • デメリット: 時間とお金が膨大にかかる。「就業規則が変わった」ときに、また学校に通わせ直さなければならない(更新が大変)。

2. 「RAG」とは?

新入社員に「社内マニュアル(辞書)」を持たせ、質問されたらそこを見て答えさせることです。

  • メリット: 辞書を渡すだけなので安くて早い。規則が変わっても、辞書のページを差し替えるだけで済む。

ビジネスの変化スピードに対応するには、 丸暗記させる「学習」よりも、その都度参照させる「RAG」の方が、 圧倒的に効率が良いのです。

RAGが動く仕組み(3ステップ)

では、実際に裏側でAIは何をしているのでしょうか。 ユーザーが「交通費の申請方法は?」と質問したときを例にします。

  1. 検索(Retrieval): システムが、社内の膨大なPDFやWordファイルの中から、「交通費」について書かれたページを探し出します。
  2. 拡張(Augmented): 見つけたページの文章と、ユーザーの質問をセットにします。 「この資料(カンニングペーパー)を読んで、申請方法を答えてね」という指示を作ります。
  3. 生成(Generation): AIがその資料を読み込み、内容をまとめて回答を作ります。

この一連の流れを一瞬で行うのがRAGシステムです。

なぜ今、RAGが選ばれるのか?3つのメリット

1. 「嘘」をつきにくくなる(ハルシネーション対策)

AIは知らないことでも「もっともらしく嘘をつく」癖があります。 しかしRAGなら、 「渡された資料に書いてあることだけを答えて」 という制約をかけられるため、回答の正確性が劇的に向上します。 「参照元:社内規定P.15」のようにソースを提示させることも可能です。

2. 情報の更新が簡単

「学習」させてしまうと、データ更新のたびに再学習(高額な費用)が必要です。 RAGなら、保存しているPDFファイルを最新版に置き換えるだけ。 今日変更されたルールも、明日にはAIが回答できるようになります。

3. セキュリティが高い

AIそのものにデータを記憶させるわけではないため、 万が一AIモデルが外部に流出しても(通常ありえませんが)、 社内データ自体が含まれているわけではありません。 「誰がどのファイルを見ていいか」という閲覧権限の管理もしやすくなります。

導入時によくある失敗:「データが汚い」問題

「じゃあRAGを導入しよう!」となったとき、 最大の壁になるのが「社内データの整理状況」です。

RAGはあくまで「検索」技術です。 もし、社内のファイルサーバーが 「ファイル名が『最新_最新_最終版.pdf』ばかりで中身が不明」 「スキャンしただけの画像データで、文字検索ができない」 といった状態だと、AIは正しいページを見つけ出せません。

「AIが読めるようにデータを整理する」 実はこれが、RAG導入プロジェクトの8割を占める泥臭い作業です。

AIコンサルタントが必要な理由

RAGの構築は、 AmazonやMicrosoftなどのクラウドサービスを使えば比較的容易に作れます。

しかし、 「どのデータを読み込ませるか」 「検索精度をどう上げるか」 「セキュリティ設計をどうするか」 は、エンジニアではなくコンサルタントの領域です。

特に、 「AIが回答できない質問が来たとき、どう返すか」 といった業務フローの設計が、現場定着の鍵を握ります。

まとめ

社内データをAIに活用させる「RAG」について解説しました。

  • AIにデータを覚えさせる「学習」は、コスト高で更新が大変。
  • マニュアルを参照させる「RAG」が、現在の最適解。
  • 成功の鍵は、AIツールよりも「社内データの整理」にある。

「うちはデータが整理されていないから無理かも…」 そう思われた方もご安心ください。

まずは「最もよく使われるマニュアル1冊」からRAG化する、 スモールスタートのご提案も可能です。 ぜひお気軽にご相談ください。